アウシュビッツ絶滅収容所にて鎮魂の風書
Fusho for the repose of the soul at Auschwitz Birkenau

2011年5月5日 ポーランド オシフィエンチム市(ドイツ名アウシュビッツ)の
アウシュビッツ=ビルケナウ絶滅収容所

ここはナチスドイツがユダヤ人(他に政治犯、ロマ、同性愛者)に対して大量虐殺が行われた
絶滅収容所であることはあまりにも有名です。
この収容所で約110万人が亡くなりました。それはわずか70年前に起こった
新しい記憶なのです。
私は過去これほどまでに現場の空気を重くかみしめたことはありませんでした。

私は2004年〜5年西アフリカを13カ国陸路で旅をした時、ガーナのケープコースト、
セネガルのゴレ島、モーリタニアに近いセントルイスと3か所の奴隷貿易の世界遺産を
訪れました。植民地時代、人間が人間に対して非人道的な行為を行った「負の遺産」でした。
アフリカンホロコーストです。ゴレ島には『Door of no return』という扉が今でも残っています。
今回第2アウシュビッツであるビルケナウの引き込み線と「死の門」と呼ばれた煉瓦の
監視塔は、痛切にそれと重なる思いがしました。

風書は初め、アウシュビッツのガス室から収容所内にある絞首刑場(1947年4月16日当時
アウシュビッツ絶滅収容所の司令官だったルドルフ・ヘスが絞首刑になった場所)へ、
そして「死の壁」と呼ばれる射殺刑が行われた場所を訪れた後、ビルケナウの
引き込み線へ移動し、その線路上で行いました。
その後、「鎮魂 NIECH SPOCZYWAJA W POKOJU」と書いた作品をもう一度、
アウシュビッツ絶滅収容所内の「死の壁」へ花束と共に捧げました。

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〜アウシュビッツの「風」を私はどう感じたか〜


 5月初旬、ポーランドは一年中で一番良い季節です。春に花を咲かせたポプラが綿花を
 つけ風に舞い、冬が長いポーランドの人々にとって初夏を感じる最高の季節でした。

 私はクラクフからの乗り合いバスの中から、どことなく悲壮感と緊張感を連れて来てしまい
 ました。しかし、ミュウジアムに着いたら、まず初めに目飛び込んできたのは、木々の葉が
 光を浴びて白く輝いていたことです。

 「こんなにきれいなのですね」私がふと呟くと、今回ガイドとしてお願いしていた中谷剛さんが
 おっしゃいました。  (中谷剛さんのご紹介
 「そうなんです。それが彼ら(ナチス)の狙いだったんです。」
 「彼らはこの場所にきれいな植え込みをしたりして、殺人工場と思わないような場所に
 したのです」

 「収容所の人々はこの時期の眩しい木々の葉に目を細めた瞬間はあっただろうか、、、、」

 中谷さんはここで起きたこと、そして伝えたいことを短い時間で話すことは難しいとおっしゃい
 ました。しかし、日本から遠く離れたポーランドでたった一人、アウシュビッツのガイドという
 仕事をしながら、彼の「ここに居れば居る程元気をもらう」、という言葉が印象的でした。



 *** 人間の尊厳の回復を願う ***

 2002年、北米の横断の旅で訪れた強制移住の歴史を引きずるネイティブアメリカンが
 暮らすアリゾナ、ユタ州のナバホ居留地、そして、2008年、チベット人権問題から一気に
 封鎖されてしまった中国西域を翌年に横断した時も、正確な情報が入らないヒマラヤの
 奥地で沈黙を守る民族と、そこに漂う抑圧感、都市での異常なまでの武装警戒を肌で
 感じました。旅人の私にも幾度とない検問と検査がありました。

 そうい場所はいつも非人道的な空気を感じてなりません。旅は感動と驚きと、時には
 どうしょうもない無力さを私に突き付けます。
 しかし、このような思いをしてもいつも私は本当の事が知りたいのです。たとえ答えが
 出なくてもどうしてもその場所の風に出会いたいのです。
 こうして今回アウシュビッツを訪れ、無くなった方々に思いを寄せながら、自分らしく
 風書に取り組んだのでした。

 私たちが歴史の悲劇に興味を持ってそれを紐解こうとする時、人間の行った過ちを
 非道として決めつけることに留まらず、それはいつからか、そして何故行われたのか、
 どのような過程を経たのか、過去を良く知る必要があるのです。
 ここアウシュビッツの空気は人間の奥深くに潜む人にあらぬ、、また人としての多くの
 問題を引き出し、未来への生き方を問うてくる重く、厳粛な、しかし一筋の光を提言する
 「風」だったように感じました。

 悲壮感と緊張感は無くなりました。不思議なのです。
 何故ゆえに?
 そして人間とは何か? 
 そして我々はどのように考えてゆけば良いのか?! 

 人間の尊厳について何かの鍵がこの地にあるような気がしてなりません。
 アウシュビッツ=ブルケナウ絶滅収容所は、心開く者に痛切に語りかけてくれるのでした。

         2011年5月5日

                                      月風かおり